川内倫子の写真集の編集と構成(日本語)

Added on by Hou penghui.

 川内倫子は1972年生まれの写真家であり、1997年には「一坪展」写真部門のグランプリを受賞した。さらに2002年には「木村伊兵衛賞」を受賞し、日本のみならず、海外の美術館で数多くの展覧会を開催した。今日の日本で注目を浴びている女性写真家の一人である。

 川内の写真を語る時、よく空気感や透明感などの形容詞が使われる。確かに川内の写真にはスタイルがある。初めて川内倫子という写真家に関心を持つようになったのは、『うたたね』という写真集を見てからのことである。川内は写真集の編集手法が見事である。写真集の構成は、川内の一番の特徴だと言っても過言ではないと思う。川内の写真集を見ただけで、この人の写真が優れているということを知った。その理由は、川内の写真はただの物事の属性で分類するのではなく、つねに物事の内側に隠された意味を探していると思えるから。2001年に発表された最初の『うたたね』から、2011年に出版した『ILLUMINANACE』にかけて、そうした表現が続いている。新作の『ILLUMINANACE』は『うたたね』の続編と考えてもよいと思う。この二冊の写真集は、編集の手法はよく似ているし、写真に出てくる被写体の関連性も高いのである。最初のページ以外、本の中にある見開きページは、全部左一枚の写真、右一枚の写真の形で編集されたものである(ただし『ILLUMINANACE』の最後の見開きページも一枚の写真だけ)。写真はすべて正方形の写真で、同じサイズである。編集の形式から見ると、それほど特別ではないが、写真の使い方によって多大な効果が出ると思う。

写真集『うたたね』

写真集『うたたね』

 『うたたね』という写真集は、タイトルだけ見ても一体どのようなテーマの写真集かまったく分からないかもしれない。実際に中に収録されている写真は、日常よくある風景である。例えば、シャボン玉や子供、あるいはハトなどである。しかし、川内にとって、それは決して物自体の意味を伝えるのではなく、他の意味を示しているのだと思う。その「他の意味」は、写真集の編集を通して効果的に表現するのである。例えば、ある見開きのページの左の写真は、糸によって編まれた網で、そこにはある糸が切れそうな様子が表現されている。それに対して、右の写真はシャボン玉である。この二枚の写真を一緒に並べると、見る人は二枚の写真の共通点を考えさせられる。それは「綺麗または丈夫に見える物だが、すぐに消えてしまうかもしれない」ということを意味しているではないかと筆者は考える。それは「生命の本質」を示しているものだと思われる。もしその二枚の写真を別々で見ると、その連想が弱くなったり、消えたりするかもしれない(被写体自身の示す意味に圧倒されかねない)。川内の写真集は、二枚の写真から生み出す新たな写真の表現が多いと思う。構図上視覚的な要素(画面構成、造形など)、意味的な連想、連続の動作または空間、あるいは写真集の中には多様な呼応と対比の形があり、さらに二種以上の呼応を同時に使う見開きページもある。同じ被写体であっても、異なるページでまた別の呼応の形で出てくる。まるで記憶の錯覚みたいなデジャ-ビュのように違和感を感じる。あるいは夢の中で跳躍式のシーンのつながりを連想させる。一部の写真の内容には残忍な表現があるが、川内の写真表現のスタイルで不快感を低減することができる。
 

(以下の数字は見開きページの順番を示す。最初に画像のある見開きページを数字1にする。)
 

All images © 2001 Rinko Kawauchi.

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1 写真集の最初の見開きページ、蝶が低木の上に
   飛んでいる。

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6 寓意的に呼応:丈夫で美しいがやがて消えてし
                             まう。運命?

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7 造形的に呼応:円形のパターン。

   寓意的に対比:食う/食われる。

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8 造形的に呼応:線の続き。
   背景の対比:トンネル内/外の空。

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19 造形的に呼応:左右画像の同じ位置に似てる造
                              形がある。

All images © 2001 Rinko Kawauchi.

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21 寓意的に呼応:音と光の聯想。

All images © 2001 Rinko Kawauchi.

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22 寓意的に呼応:破れた/隙間から差し込まれ
                              た光(針状)。
      左の写真の寓意:太陽光にあたっていない/
                                   動いてない状態/
                                   萎んだ状態 → 死亡の聯想

All images © 2001 Rinko Kawauchi.

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29 空間の連続性。

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32 造形的に呼応:地面の図形と扇風機の外殻。
     寓意的に呼応:回る。

All images © 2001 Rinko Kawauchi.

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41 寓意的に呼応:死亡/斬る。
     蝶の再出現:生/死。

All images © 2001 Rinko Kawauchi.

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45 造形的に呼応:鳥と馬のポーズ。
     背景の対比:光/闇。
     寓意的に対比:生物/物質。

All images © 2001 Rinko Kawauchi.

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56 寓意的に呼応:跳び縄の回転とタイヤの回転
                               子供、太陽光にあたっている  
                               → 生命感の聯想。
     タイヤの再出現:停止(死亡)/
                                   回転(生命感)。

All images © 2001 Rinko Kawauchi.

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65 造形的に呼応:虹と雨ブラシの跡。
    
    これは最後の見開きベージ、個人的には「希
    望(虹の寓意)のある終り方(帰り道の寓意」
    を意味すると考える。

 以上の解釈は、主に左右の写真の関連性を示すことができるが、前後の写真の関係は説明しにくい(数字で写真集の中での順番を示すだけ)。実際に写真集を分析する時、すべての見開きページを一気に並べるのは最も良い手法だと思う。『うたたね』の中で、たくさんの似たシーンは対になっている(三回出るものもある)。しかし、そういう写真は大体同じ見開きページにあるのではなく、数ページ後に出るのである。そのため、写真集を見て行く時、とてもリズム感が生み出せる実に巧妙な編集方法となっている。

すべての見開きページを一気に並べることに編集者の意図があると考えられ、さらに写真の順番の重要性が感じられる。

すべての見開きページを一気に並べることに編集者の意図があると考えられ、さらに写真の順番の重要性が感じられる。

写真集『ILLuminance』

写真集『ILLuminance』

 新作の『ILLUMINANCE』、これも編集の手法は同じだが、被写体の選択肢がもっと幅広くなった。同時に編集にもさらに巧妙になった。例えば、写真集のタイトルに入る前の写真(プロローグ、映画のタイトルの前の序章みたいなもの)は、一枚の皆既日食の写真である。それに対して、最後の一枚の写真は、皆既日食の後で月が少し移動して部分日食になった状態の写真である。川内本人も語っている(注1)、写真集の中でのイメージは、この僅かの数分間の中での出来事みたいに、自己幻想、あるいは自分の記憶に対する疑問などである。それは実は『うたたね』のコンセプトに似ている。うたたねする時、よく記憶の断片的なイメージが浮かび上がった。写真集はそういうイメージを一気に流れるように再現した模様である。川内の写真の内容は、いつも明確な時間と空間の要素を避けるのである。意識がぼんやりする時に浮かび上がったイメージは、時間と空間に左右されないが、必ず個人の真実性をも含めているからである。

 「Illuminance」は照度の意味で、単位面積当たり入射する光束量である。異なる状況(晴、曇、室内)ではそれぞれの代表的な照度がある。実際に日常生活ではあまり使われない言葉であるが、単純に照明あるいは光の意味として理解するのも妥当だと思う。川内倫子は写真集のタイトルを考える時、多様に解釈できる命名が好ましい。この二冊の写真集のタイトルからの聯想も面白い。「うたたね」する時見える「光」、それは一体現実か夢か、まるで幻のような存在である。写真集にある被写体も、『うたたね』から継ぐものが多い。例えば、シャボン玉、女の子供、ハト、樹、蝶、運転中の車窓などである。見ると強い既視感がすぐに感じられるはずだと思う。

 川内の写真集は、色々な被写体の写真を使って一つのテーマを表現し、写真の配置や画面の構成を考えて編集し、左右と前後ページの呼応(今では写真集と写真集の呼応までも含んだ)で独特な世界観と写真語彙が形成される。写真編集に興味ある人に見てもらいたいお勧めの写真集である。前述の写真に対する解釈も、決して唯一のものではなく、一つの可能性である。私はこの二冊の写真集を見る時、ほぼ毎回新しい発見が出来た。川内の編集手法はもともと多様な解読が出来るわけである。筆者の観点だけで解釈すると面白くなくなるから、この文章では『Illuminance』の写真は引用しない。興味のある方は、是非実際にこの二冊の写真集を手にとって見てみて、写真編集の力や効果を実感していただきたいと思う。
 

注1:インタビューの記事に記載してある。川内倫子(2012)『照度 あめつち 影を見る』青幻舎 p.98。

参考資料:
川内倫子(2001)『うたたね』リトルモア
川内倫子(2011)『Illuminance』フォイル
川内倫子「Rinko Kawauchi」http://www.rinkokawauchi.com